miの独り言

クリスタルパレスを応援する大学生の独り言です。

パレスが起こした「エティハドの奇跡」 その時僕は「真っ白」になった。

  

 2018年12月23日日曜日午前1時53分。クリスタルパレスマンチェスターシティ戦試合終了の笛を聞いて、僕は「真っ白」になったーー

 

 

 

 

 「真っ白」という表現は、僕のあの日の心情を表すのに不適切かもしれない。ただ嬉しさとか喜びとかそういった単純な気持ちでは言い表せないものだった。あえて詳しく言いかえるならば、興奮のあまり気持ちが整理できない状態とするのが妥当だろうか。

 

 興奮のあまりその感情を100%思い出すことはできないが、少なくともそこに理性はなかったことは覚えている。

 

 過去の自分を振り返ったり語ったりするのはあまり好きじゃないのだが、今回だけはそんな「特別」な試合に対して自分の率直な気持ちを記したかった。

 

 「エティハドの奇跡」 それは僕にとって生涯忘れられないであろう出来事だ。

 

 

 対戦相手マンチェスターシティについて

 

 

 

 この出来事を語る前にまず1つ確実に言えることがある。それは今季戦った中でマンチェスターシティはどのチームよりも完成度が高かった、ということだ。

 

 とにかく攻撃のバリエーションが多い。守備ブロックの中で浮く場面が多かった左サイドのレロイ・サネを起点に攻撃が作り出されることが多かったが、シティの攻撃陣はホジソンが仕込んだ4-5のブロックを蛇のようにするすると抜け、どこからでも自由自在に攻撃を仕掛けてくる。加えて彼ら個人の圧倒的な「個」のスキル、運動能力の高さも随所に感じた。

 

 シティの強さについて言うべきことは他にもたくさんあるが、とにかく恐ろしく強かった。そして普通であればまず負けていた。だからこそこれは「奇跡」なのだ。

 

 

 「想定内」の立ち上がり

 

 22日午後23時スタメン発表。スタメンの座を確固たるものにしていた中盤の1人シェイク・クヤテが欠場し、代わりにジェフリー・シュルップがスタメンに入った。

 

 強いフィジカルと予測能力で中盤の守備を引き締めることができるクヤテの負傷離脱は大きな痛手。今季軽率なプレイが多いシュルップにはさほど大きな期待を持てなかった、というのがその時の率直な気持ちだった。

 

 その90分後、僕はシュルップの背番号「15」枚分の反省文を書かなければならないくらいの感謝と謝罪の気持ちを彼に抱くことになるのだが…。

 

 いずれにせよ、シティに勝てる道筋を見つけられない「いつも通り」のメンバーだったことに疑いの余地はなかったのだ。

 

 

 

 そして23日午前0時キックオフーー。

 

 開始直後からシティのテンションは高かった。息を飲む間もないような速い攻撃。圧倒的なクオリティーの高さには、敵ながら芸術点をつけたくなるほどだった。

 

 そして前半28分イルカイ・ギュンドアンのヘディングでシティが先制。

 

 悔しいなんて気持ちはなかった。ただただ力の差を感じる。ラップトップの前で静かに、滑らかに指を動かし、僕が管理しているパレスジャパンのアカウントでシティ得点のアナウンスをした。

 

 「まあ、こんなもんだよな。」

 

 ここまではむしろ「想定内」の出来事だった。

 

 しかし「奇跡」の前兆が訪れるのはそのわずか5分後のことだった。

 

 

 異変と動揺

 

 最初の事件は前半33分。今僕がロンドンに行けるとしたら、真っ先に謝罪の意を述べなければならない男がやってのけた。

 

 「ジェフリー・シュルップははっきりいって技術的にそんなうまくない。視野も狭い。身体能力に頼った典型的なアスリート型のサイドプレイヤー。」

 

 シュルップのプレースタイルを端的にいうと?と聞かれたときに僕が答えるであろう回答だ。この回答を修正するつもりもないし、今後もそう答える可能性は高いだろう。

 

 ただ忘れていたことが1つあった。

 

 それは「意外性」だ。

 

 もう少し具体的にいうと、謎のポジショニング、謎のドリブル…、そして謎の得点力だ。

 

 総合的な中盤の選手の能力という点でいうとクヤテの方が秀でている。ただマークに付いていたカイル・ウォーカーが多少ルーズだったとしてもあんな冷静に、左足を振りぬいてサイドネットを揺らせる男がいるのか?? そう、彼は「持ってる男」なのだ。

 

 とにかく驚いた。しかもあれがパレスのファーストシュート。得点力不足にあえいでいる今季とは全く異なる滑り出しだった。この時少しばかり異変を感じた。

 

 

 今日、いつもと違うなーー

 

 

  そして2つ目の事件は僕が感じた異変の確実性を証明するのに十分だった。

 

  伏兵シュルップのゴールからわずか2分後。相手のクリアをそのままタウンゼントがダイレクトで打ち返した。テレビゲームでも実現するのが難しいゴラッソだ。リプレイでもう100回ほどは見返したであろうスーパーゴールをリアルタイムで目撃したとき、途轍もなく鳥肌をたてたことを生々しく覚えている。

 

 僕は叫ばざるを得なかった。そしてシティ相手に逆転した、という「事実」がまた僕の心を「動揺」させた。

 

 

 

 気持ちが落ち着かぬまま前半が終了。ただ残り時間が45分あることも当然認識していた。控えにアグエロやデブライネなど主力級の選手を備えているシティにやすやすとは思っていなかった。

 

 

 そして運命の後半45分が始まったーー

 

 

 夢が現実に

 

 後半立ち上がり。シティはオタメンディに変えてアグエロを投入。攻めの姿勢を見せて勝負に出る。

 

 しかしその攻守のバランスを変えた一瞬の隙をパレスが突き3つ目の事件が起こる。エリア内まで侵入したマイヤーをウォーカーが倒してパレスにPKが与えられる。

 

 この時全パレスサポはあの場面を思い出しただろう。昨年末のシティ戦。後半終了間際にPKをもらったものの、ルカ・ミリヴォイェヴィッチが放ったシュートはエデルソンにセービングされた。あのときは「奇跡」を起こし損ねてしまったのだ。

 

 そんな僕たちの不安を吹き飛ばすかのように彼は冷静に、力強くペナルティを沈めた。1年ぶりの雪辱を我がキャプテンは果たし、スコアを1-3とした。キャプテンが拳を突き上げ、喜びを爆発させる。その表情は自身に満ち溢れていた。

 

 2点差。あのシティから。狂ってしまいそうだった。ペップ・グアルディオラが焦っている姿が映し出された。本当に僕らは王者を追い詰めている。落ち着いて座って観戦することなどできるはずがなかった。

 

 夢が現実に近づいている。それに比例して僕の心拍数も上がっていった。

 

 その後はシティの怒涛の攻撃が続いた。特にデブルイネの投入は、1段階にとどまらず3段階ほど彼らのギアを上げた。彼を起点にチームが循環し、アタッキングサードから正確無比なパスとクロスをボックス内に打ち続ける。そして後半40分には彼のクロスが直接ゴールに吸い込まれてしまった。

 

 静まりかけていたエティハドが再び盛り上がり始めた。雰囲気に飲み込まれてしまうのではないか。それでもパレスの選手たちは冷静だった。ラインを崩さなかった、足がつりそうになりながらも懸命に走り続けた。

 

 

 

 

 そして1時53分、試合終了の笛が鳴ったーー。

 

 

 その時「真っ白」になった

 

  終わった。本当に勝ったのだ。

 

 正気ではいられなかったから物に当らざるを得なかった。だから思わず近くのソファーを思いっきりグーで殴った。

 

 様々な気持ちがこみ上げるのをぐっとこらえて、パレスジャパンのアカウントで試合結果をツイート。すぐに多くの人から反応が来たが、その時点で具体的なリアクションを出すことができなかった。

 

  「真っ白」になったからだ。その時点では気持ちの整理がつかなかった。勝利した余韻に浸っているのだが、いつもの勝利とは違う……。得も言われぬ感情に、試合終了後僕は浸食されていた。

 

 ただ1つだけ僕の心の内でずっと思うことがあった。それは選手たち、監督、サポーター、スタッフ…。パレスに関するすべての人が「最高」であるということだ。それ以外の感情を僕は具体的に持ち得ることができなかった。

 

 

 普段は勝利の余韻に浸りながら快眠できるのだが、「真っ白」なまま眠れるはずもなく…。おそらくあの日は3時間くらいしか寝ていない。その結果、翌日のインターン先の電車に乗り間違えてしまい、大幅に遅れてインターン先に到着。僕の顔は「真っ青」になってしまった…。

  

 

 

 

 複合的な要因が数ある中で生まれた今回の勝利。様々な偶然が重なった勝利。この試合は決してデータに基づいた勝利ではない。

 

 「理論」づくめではなく「魂」で勝つサッカー。それに加え、このチームには何か大きなことをやってのける不思議な力がある。だから僕はクリスタルパレスが好きなんだ。

 

 改めて僕がクリスタルパレスを好きたる所以を知らしめてくれる試合でもあった。

 

 これからも僕はこの「最高」のチームを応援し続けていく。

 

 

 日本よりサウスロンドンへ愛をこめて。 

 

 

 【了】