【特別編】 早稲田からJへ――「変革者」岡田優希が書き上げる『革命物語』(後編)
第2章:「選手」として起こした変革
高校生の時点では川崎フロンターレU-18に所属していた岡田。自分たちでボールを支配し、主導権を握るサッカーということもあってプレーエリアは比較的狭く、ペナルティエリア付近でフィニッシャーとしての役割に専念する機会が多かった。
しかし早稲田大のサッカーはそれとはまるで違うサッカー。入部当初のギャップを岡田はこう振り返る。
「もちろん入部する前も早稲田のサッカーを観ていました。ただ、いざ実際に見てみるとそのイメージはひっくり返りましたね。まるで外国に来たかのような衝撃を受けました(笑)」
早稲田のサッカーは、フィジカル・個人の力に依存し守備もマンツーマンでつくことが多い、ある種「典型的」な大学サッカーのスタイル。前線の選手の立場からすると積極的なプレスが求められると同時に、前線に来るボールもアバウトなロングボールが多くなる。つまり体格が比較的小柄な岡田からすれば、ボールを収めづらい展開が増えてくることになり、自身が得意なプレーをなかなか体現できなくなってしまうのだ。
「このままだとまずい。」
「早稲田」につぶされてしまう危機感を感じた岡田が自身のプレースタイルを変えなければならなかったのはある意味必然だった。
自身のプレースタイルを「変革」するために、岡田はなかなか試合に出れなかった1年生の時から、徹底的に分析を行った。
「1年生の時からずっと大学リーグのサッカーを分析していました。それから4年経って、それぞれのチームが確立しているスタイルやディフェンスのやり方の分析を一通り終えられたのは大きいと思いますね。その分析が頭の中にあるので、今の自分だったらこういうプレーをすれば点を取れるんじゃないか、っていうイメージがはっきりしてくるんです。」
また大学サッカーだけでなく海外サッカーの分析にも余念がない。
「よく海外サッカーを観たり、著名なライターの方が書く戦術分析ブログを読んで勉強しています。チャンピオンズリーグなんかを見てると各チームと各大学のスタイルが似ているときがあるので参考になりますね。あとチーム自体の動きに加えて、同じポジションの選手の動きを主観的に注視して、自分の動きの中に取り入れようと努めています。」
そしてその分析や研究に基づいて、岡田は攻守において自身のプレースタイルを「変革」した。
まず攻撃面においては、プレーエリアを広げたことが挙げられる。フロンターレでは、アタッキングサードでフィニッシュに絡む役割に集中していればよかったのだが、早稲田では自陣からのカウンターや後方からゲームメイクすることなど様々な役割をこなすことが求められる。そこで岡田はハーフスペースやバイタルエリアを使う動きを増やし、サイドチェンジやスルーパスの出し手として、ゴール前以外の部分でも持ち味の技術をうまく活かすよう心掛けた。また守備面では、チームで共有しているプレスの決まりごとの中で、効果的なプレスをかけられるよう工夫を凝らし、チームの守備にプラスアルファをもたらした。
自分自身の「変革」を通していく中でターニングポイントとなった試合は何かなかったのか。岡田にそう尋ねると意外な答えが返ってきた。
「毎試合がターニングポイントだと思っています。毎試合ゴールやスタッツといった結果が出ると同時に、課題を突き付けられるんです。ゴールという結果は自分自身の成長のプロセスだと思ってますけど、ゴールにつながらなかった過程の部分をより意識してフィードバックしてますね。結果で一喜一憂しないことが重要だと考えています。」
飽くなき向上心と継続的な分析をする岡田だからこそ言えるこの言葉。今シーズンの岡田の出来は、4年間の集大成を顕示した、ある種必然的な結果といえるだろう。
第3章:FC町田ゼルビアで起こす「変革」
9月2日にFC町田ゼルビアに加入することが発表された岡田。しかし加入するまでには自身の中で葛藤があったという。
その大きな要因はチーム全員に課せられるハードワークに加え、フィジカルを前面に押し出したカウンターを特徴とする早稲田大に近いFC町田ゼルビアのサッカースタイルだ。
「6月の下旬に練習に参加させてもらったんですけど、衝撃を覚えましたね。決してネガティブな印象を持ったわけではないんですけど、どうやってこのチームで生き残っていこうかなって。」
フィジカルに決して特徴がある選手ではない岡田からすれば、早稲田の時と同じくまたしても“マイナスからのスタート”になる可能性が高い。しかし岡田は、例え不利な状況であってもFC町田ゼルビアでやっていける自信を大学での経験を通して得ることができた。
「それでも自分がまた成長できるチャンスだ、と感じましたね。伝統やパワーを重視している大学で、チームの“変革”を起こして新しく土壌を作り上げた経験は自分の強さになると感じています。この大学に来て、自分が生き残れたことに間違いなく価値はあると思いますし、その価値をFC町田ゼルビアでも出していきたいですね。」
また、FC町田ゼルビアとサインするまでの過程で、FC町田ゼルビアの強化部のスタッフが岡田に語った言葉を教えてくれた。
「プレーの端々から見られる欲求のような強いハートを持っているという人間性の部分を評価してくださったと同時に、FC町田ゼルビアが今後クラブとして大きくなっていく中で、チームの「顔」として貢献してほしい、というお言葉をいただきました。またありがたいことに特別指定選手にも選んでくださったので(注:9月12日、岡田はJFA・Jリーグ特別指定選手として認定され、FC町田ゼルビアの選手として公式戦に出場することが可能になった。)、高い期待を寄せてくれているのだという思いも感じ取れましたね。」
最後にFC町田ゼルビアへの入団が決まってから、岡田がTwitter上でコメントしていた「有難うの気持ちを込めてプレーする。」ということの意味を尋ねてみた。
「僕の周りには家族や友達、獲得して下さったFC町田ゼルビアの関係者の方々などプロになるまでに支えてくださった方々がたくさんいます。そういった方たちへの感謝ももちろんですし、プロになれたこと自体マイノリティーで「有り難い」ことなので。自分自身のプレーの精度を最大限上げて、プロになれることの喜びと感謝をピッチ上で表現していきたいです。」
決して順風満帆な道のりではなかったものの、キャプテンとして大学で「変革」を起こし、大きな成功体験をした岡田。そして彼のサクセスストーリーは、今J2で大きな注目を集めている町田の地へと続いていく。
この物語はどこまで続いていくのか。「変革者」の起こす『革命物語』はまだ序章に過ぎない――
【了】